「ご予算は?」と聞いて自爆してない?アポ率を劇的に変えるBANTCHヒアリングの正しい順番
セールス:今回ご紹介したようなツールにかけられるご予算ってどのくらいですか?
顧客:いや、予算はまだ全然決まってない。
セールス:で、では決裁はどなたが……
顧客:ちょっとそこもわからないので、とりあえず資料送ってもらえます?
予算、決裁権、ニーズ、時期、競合、人員体制といった営業活動に重要なBANTCH(バンチ)情報。いざヒアリングしようとすると、冒頭のようなやり取りを経験したことがある方も多いのではないでしょうか。
聞くべき項目は分かっているのに、なぜか聞き出せない。それ、実は「順番」と「聞き方」が間違っているだけかもしれません。
今回は1,000社以上の営業を支援してきた筆者の経験から、顧客と自然な会話をしながらBANTCH情報を引き出す極意をお伝えします。
営業の定番フレームワーク「BANTCH」とは?
BANTCHとは、インサイドセールスやテレアポの現場で使われるヒアリングフレームワークのことです。
正式にはこの6つの頭文字を取ったもので、通称「バンチ」「バントシーエイチ」と呼ばれています。
B:Budget(予算) A:Authority(決裁・権限) N:Needs(ニーズ) T:Timeframe(時期) C:Competitor(競合) H:Human Resources(人員体制)
定義だけ説明するとこれだけですが、営業活動においてはどれも非常に重要な情報です。なのでヒアリングの際に意地でも聞き出そうとしてしまい、冷たくあしらわれる原因になりがちです。
BANTCH情報をただ埋めることを目的にするのは、本末転倒だと考えています。BANTCH情報はあくまでも、顧客を尋問せずに、自然な会話のなかで”買う気”(本音)を測るための見取り図です。この見取り図を使って「この顧客にはどんな提案が刺さるのか?」を把握することが本質だと思っています。
そもそもBANTCHって何の略?BANTとの違い
BANTCHと混同されがちなのがBANT条件という言葉です。BANTはBudget(予算)・Authority(決裁)・Needs(ニーズ)・Timeframe(時期)の4つで構成されるフレームワークを指します。BANTCHはさらにCompetitor(競合)とHuman Resources(人員体制)の2項目を加えたものです。
特にBtoBのサービスでは、競合がいるかどうかで商談の切り口がまったく変わります。また、人員体制がわかれば導入後のオンボーディングの話までイメージできますよね。
つまり、BANTCHは、より実践的な商談に繋がるヒアリングフレームワークだと思ってください。
BANT情報について詳しく解説した記事はこちら BANT情報、集めることが目的になってない?営業定番フレームワークのポイントは「聞き方」
なぜアポ取得の段階でBANTCHを聞く必要があるのか?
ここまで読んで「ヒアリングは商談の場でやればいいんじゃない?」と思った方は、実際に顧客と商談するフィールドセールスの立場になってみてください。
フィールドセールスの商談時間は、多くの場合30分〜60分です。この限られた時間の中でステップを次に進めるためには、手前のインサイドセールスがBANTCH情報をできるだけ押さえてパスを出すことがめちゃくちゃ重要なんです。
事前にBANTCH情報が揃っていれば、FSは商談の冒頭から本題に入れます。逆にこれがゼロだと、商談の半分を情報収集に費やすことになり、1回の商談でステップが進む確率がガクッと下がります。ヒアリングをおろそかにした分、アポの質が悪くなるといっても過言ではありません。
マニュアル通りに聞いて撃沈する「尋問型ヒアリング」の悲劇
「BANTCHを聞いてこい」と言われた新人が、マニュアルの上から順番にBudget(予算)→Authority(決裁権)→Needs(ニーズ)……と聞いていく。これ、現場でよく見る光景なんですけど、ほぼ確実に自爆します。
その理由を一緒に見ていきましょう。
最初の質問で「予算(B)」を聞いてはいけない理由
もしみなさんがマッチングアプリで初めて会う前の人に「あなた年収いくらですか?」と聞かれたら、どう思いますでしょうか?(筆者は「おもしれー女……」と思います)
初回ヒアリングの一番最初に予算を聞くというのは、これとほぼ同じことです。
予算の話は相手にとって非常にデリケートな情報です。まだ信頼関係もできていない段階でお金の話をされると「この人はウチの財布の中身を探りに来たんだな」と警戒されてしまい、「まだ全然決まってないよ」「とりあえず資料送って」と逃げられる可能性が高くなるんです。
担当者は自分の会社の「決裁フロー(A)」を知らない
商談相手に「あなたは決裁権をお持ちですか?」と直接聞く方はいないと思いますが、決裁フローの情報を探ろうとしても、ぱっとした回答を引き出せないことはよくあります。
実は商談に出ている担当者(とくに大手企業の場合)は、担当者が決裁フローを把握していないことも珍しくありません。つまり最終判断者が誰で、その判断に誰が関わっていてどのくらいの期間がかかるのか、正確には把握していないことが多いのです。
みなさんも経験があるかもしれませんが、人間は知らないことを聞かれると不安になってごまかそうとします。商談の場だと「わからない」と正直に答えるのも恥ずかしいし、かといって適当なことも言えない。なので「ちょっとわからないので、とりあえず資料送ってもらえますか?」という、逃げの回答になってしまいがちなんです。
尋問になると顧客の心のシャッターは一瞬で閉まる
予算(B)と決裁フロー(A)だけに限らず、BANTCH情報を引き出そうとする時の最大の失敗はヒアリングではなく尋問になっていることです。
「ご予算は?」「決裁者はどなたですか?」「導入時期は?」と一問一答で聞いていくやり方は、まるでBOTですよね。自分自身はそう思っていないとしても、相手を「人間」として扱っていないのと同じなんです。
こうなると、顧客の心のシャッターは一瞬で閉まります。「この人は自分の話を聞きたいんじゃなくて、情報を抜きたいだけなんだな」と思われた瞬間、もうそこから先は何を聞いても表面的な回答しか返ってきません。
BANTCHには「守るべき順番」がある
じゃあどうすればいいのか? 結論から言うと、BANTCH情報のヒアリングには、守るべき順番があります。
鉄則は「担当者が知っていて、答えやすいもの」から
ヒアリングをうまくいかせるコツは、実はめちゃくちゃシンプルです。顧客が答えやすいもので、かつ知っているものから聞いていく。これだけです。
BANTCHの各項目を「担当者が知っているか/知らないか」と「答えやすいか/答えづらいか」の2軸で整理すると、以下のようなマトリクスになります。

予算(B)と決裁(A)は、「知らない&答えづらい」の最悪コンボ。だからこそ、ここからヒアリングを始めてしまうと自爆するわけです。
たとえば大手企業の場合、担当者は現場のオペレーションには詳しいけれど、部門全体の予算枠や稟議のフローについては「上が決めることなので」と把握していないことが多いです。
特に決裁フローは、表向きの「部長承認」だけでなく、実際には隣の部署の意見が必要だったり、経営企画の合意が必要だったり、担当者自身も全容を知らない”ブラックボックス”があります。だからこそ、予算と決裁は知らないし答えづらい情報なのです。
アポ率を爆上げする順番「N→T→H→C→B→A」
筆者が推奨しているBANTCHのヒアリング順番は、N→T→H→C→B→Aです。
この順番で聞く理由は4つあります。
理由①:「契約判断は個人が行う」から、個人のN(ニーズ)が起点になる N(ニーズ)から入る理由は明快で、課題やお困りごとは担当者が一番よく知っていて、一番話しやすいテーマだからです。
商品・商材の契約は会社間で発生しますが、契約の判断をするのは個人です。会社全体の課題ではなく、目の前の担当者個人が「これは自分のミッション達成に必要だ」と感じるかどうかが、稟議に出すか出さないかの分かれ目になります。だからこそ、最初に聞くべきは担当者個人のN(ニーズ)なんです。
理由②:N→Tの流れで「課題の重要度」の共通認識が作れる ヒアリングの難所のひとつが、課題の重要度に対して共通認識を持たせること。担当者がいいなと思ってくれても、それが今すぐ解決すべき重要な課題かどうかは別問題です。
そこで、有効なのがニーズを聞いた後にT(時期)を聞くことです。「〇〇が課題です」→「いつまでに対応されたいですか?」という流れをつくることで、課題にタイムリミットを紐づけることで、顧客にとっても重要な課題であることを認識してもらえます。
「半年後までに導入したいということは、来月には動き出さなきゃいけないですね。〇〇さんにとって結構重要な内容なんですね」と自然な流れで共通認識をつくれると、商談に臨む顧客の温度感も変わります。
理由③:H(人員体制)→C(競合)の順が、提案の解像度を上げる 次にH(人員体制)とC(競合)ですが、Hを先に聞くのは「何名のチームで、どういう体制で回しているか」がわかると、導入後の運用イメージまで含めた提案ができるようになるからです。
体制がわかった状態で「他社も見ていますか?」と聞けば、「他社だと〇〇が強いけど、御社の体制だとむしろ△△の方が合いそうですね」など、提案の切り口が作れます。H→Cの順は、セールスが商談でどう差別化するかの武器を用意するための準備期間といえます。
理由④:B(予算)とA(決裁)は、信頼関係がないと「本当の答え」が返ってこない N→T→H→Cと聞いていくと、自然と顧客の課題や体制などの情報が深堀りできているはずです。顧客にとっても「この人は自分の業務を理解しようとしてくれている」と感じていただける状態となっています。
このタイミングなら、「予算感ってどのくらいですか?」と聞いても、構えずに答えてくれる確率が上がります。逆に、信頼関係がゼロの状態でBとAを聞いても、本当の答えは返ってきません。商談においては、「知っている・知らない」だけでなく、「教えたい・教えたくない」という感情論も大きく関わるのです。
聞きづらい情報をサラッと引き出す「枕詞」の魔法
とはいえ、いくら順番を守ってもB(予算)やA(決裁)は聞きづらい情報です。そこで威力を発揮するのが、枕詞(クッション言葉)です。
枕詞とは、特定の会話の冒頭につける一節のこと。使い方次第でストレートなもの言いを柔らかい表現に変えたり、聞きづらいことをスムーズに聞けるようになります。ここでは現場ですぐ使える例をいくつかご紹介します。
「ストレートに聞いちゃうんですけど〜」で懐に入る
たとえば決裁について聞きたいとき。「もし今回の話が〇〇さん的にOKとなったら、〇〇さんの決裁範囲で進めていただけるものですかね? それともやっぱり上長承認が必要になるんですかね?」
この質問の前に「ストレートに聞いちゃうんですけど」を付けてみてください。
この枕詞は「これからちょっと踏み込んだことを聞きますよ」という予告であると同時に、「聞きづらいことを聞いている自覚はありますよ」という敬意や思い切りの良さが感じられます。顧客も「あ、この人はわかった上で聞いてるんだな」と感じて、構えずに答えてくれやすいです。
「お答えいただける範囲で構わないのですが〜」で逃げ道を作る
顧客が知らないこと、答えづらいことには逃げ道を作ってあげるのが有効です。「お答えいただける範囲で構わないのですが」と一言添えるだけで、「答えなきゃいけない」というプレッシャーが消えて、かえって正直に答えてくれる可能性が高くなります。
特にBANTCH情報のB(予算)やA(決裁)のような、回答ハードルの高い項目を聞くときに効果的。「少し深掘りしたいのですが」という枕詞も、ヒアリングを自然に深めたいときに使えます。
トークスクリプトを「自分の口癖」に翻訳する重要性
前提として、枕詞もトークスクリプトも、マニュアル通りに棒読みするのはやめましょう。実際の営業でもよくあるのが、上長が「これがいいよ」と作ったスクリプトが、実際に使う人の口調に合っていないケースです。
たとえば業界未経験のアルバイトの方に、専門用語がびっしり並んだスクリプトを渡してしまうと、読み上げるのに必死になって会話のテンポが崩れます。不慣れな言葉は顧客にも伝わってしまうので、「この人なんか頼りないな」と信頼感を失うきっかけになってしまうかもしれません。
大事なのは、自分のキャラならどう言うか?を考え、自分なりのトークに落とし込むことです。「ストレートに聞いちゃうんですけど」が自分のキャラに合わないなら、「ぶっちゃけた話なんですが」でもいいし、「率直にお聞きしたいんですが」でも大丈夫です。訴求内容はブラさずに、言い回しだけ自分の口癖に翻訳してみてください。
こうした属人的な工夫こそが、BOTと人間のヒアリングを分ける決定的な違いだと思います。
よくある質問
Q. BANTCHとは何ですか? BANTCHとは、Budget(予算)・Authority(決裁)・Needs(ニーズ)・Timeframe(時期)・Competitor(競合)・Human Resources(人員体制)の頭文字を取った、営業ヒアリングのフレームワークです。商談をスムーズに進めるために、インサイドセールスの段階でこれらの情報を把握することが目的とされています。
Q. BANTとBANTCH、どっちを使えばいいですか? 顧客のステータス状況にあわせて変えるのがおすすめです。たとえば、検討フェーズに至っていない方に予算を聞いても有効ではありません。
ちなみに、弊社ではニーズに合わせて、ステータスを4段階に分けています。
・cold low…課題を把握していない ・cold hi…課題を把握しているがサービスの導入意識はない ・warm…サービス導入意識はあるものの、積極的に探しておらず、時期なども明確でない ・hot…サービス導入は決めており、具体的にサービスの選定をしている
詳しくは以下の記事で解説しているので、ぜひご覧ください。 BANT情報、集めることが目的になってない?営業定番フレームワークのポイントは「聞き方」
Q. いきなり予算(B)を聞いてもいいですか? 原則、避けたほうがいいです。まだ信頼関係ができていない段階で予算を聞くと、顧客は警戒して「決まってない」と逃げてしまいます。まずはN(ニーズ)やT(時期)といった、相手が答えやすい項目から入り、会話の中で信頼を積み上げてから聞くのが鉄則です。
Q. BANTCHを聞くのは時代遅れですか? 決して時代遅れではありませんが、盲目的に情報を埋めようとせず、状況に合わせてヒアリングをしていくことが重要です。BANTCHはあくまでもフレームワーク。顧客の状況によっては聞いてもあまり意味のないこともあります。
Q. 全部の項目を聞き出せないときはどうすればいいですか? 全部聞けなくても問題ありません。明らかに導入の意志がない場合や、予算取りが難しい時期に無理に引き出そうとするのは、かえって心証が悪くなります。引き出せなかった情報は時期を空けて2回目のコールで聞くなど、リストを育てるための伏線として持っておくのがよいでしょう。
ヒアリングは尋問ではなく、相手を知ろうとする「愛」である
インサイドセールスでは、無意識に架電側の意図を押し付ける会話が発生しやすくなります。特にBANTCH情報のヒアリングでは一方的な会話になってしまうミスが起きがちです。
まずは相手に共感する気持ちを大切にしましょう。「そうですよね」「それって〇〇ですよね」など、一つひとつの言葉や状況へ共感することが、ヒアリング時のベースになります。
目の前の担当者がどんな業務を担当していて、どんなミッションを追っていて、どこに困っているのか。そこに寄り添う姿勢があれば、BANTCHの項目は自然と埋まっていくはずです。
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