応酬話法は「マニュアル」「トレーニング」で変わるのか?断られたときの返し方とアポ率向上の極意

「お世話になっております。私、株式会社JYMの……」
「すみません、今忙しくて。興味ないです。必要ないです!」
ガチャッ。
アウトバウンドセールスの経験がある方なら、誰もが同じような瞬間に立ち会ったことがありますよね。
こうしたお客様からの断りや反論に返答するテクニックのひとつが「応酬話法(おうしゅうわほう)」です。勘違いされがちですが、応酬話法は単なるフレーズのマニュアルや「切り返しトーク集」ではありません。まさに相手の温度感・空気を読むことで心のシャッターを開くテクニックなんです。
これまでのキャリアで20万コール以上かけてきた筆者の経験も交えながら、応酬話法を使いこなすための極意をお伝えします。
そもそも「応酬話法」って?
応酬話法とは、顧客のネガティブな発言に対して、こちらの意思で切り返して会話展開を行う話法です。
主な種類には以下のようなものがあります。
応酬話法の本質は「心理的な壁を崩す」「対話をつなげる技術」であり、上記のようなパターンを覚えることと営業の現場で使うことはまったく別物だということにご注意ください。
応酬話法=「断り文句に返す言葉」ではない
結論、応酬話法とは「断り文句に返す言葉」ではなく「空気を読む力」だと筆者は考えています。例として商材を案内した際にお断りされたケースを2つ考えてみましょう。
ケース1
お客様:うーん、今は興味ないかな 営業A:でも、こんなメリットがありますよ! お客様:いや、でもうちにはやっぱり必要ないよ 営業A:そうですか、分かりました……
ケース2
お客様:うーん、今は興味ないかな 営業B:そうですよね〜。ちなみに、どういったところがピンと来なかったですか? お客様:コストが高いかな。費用対効果が本当に見合うのか分からなくて。 営業B:コスト面ですか。もう少し初期費用が安ければ導入を検討しやすいですよね。 お客様:そうだね。 営業B:実は◯◯の機能を削れば◯◯円から導入が可能でして〜
Aは適切ではない場面でYes but法を使ってしまったことで、強引な営業に感じられますよね。一方でBの営業はYESセットなどの心理学的アプローチや共感ワードと併用し、顧客課題の深堀りに成功しています。
先方がどんな温度感で何を求めているのか。それを推し量る空気を読む力から、スムーズな対話は生まれるのです。
「断り」にはパターンがある
断り文句はおおよそ以下のパターンに分類できます。商談においては臨機応変さも必要ですが、パターンさえ押さえておけば対応方法もある程度固められます。
関心が低い
【断り方】「興味ありません」「必要ないです」 【背景】そもそも課題を感じていない。または業務が忙しく優先順位が低い状態 【対応例】先方の温度感による。冷たい場合は深追いしない。やんわりと断られる場合は現状の課題などヒアリングに繋げられる可能性がある。
タイミングが悪い
【断り方】「今は検討していない」「忙しい」 【背景】必要性がゼロではないが、今すぐ求めていない状態 【対応例】可能であれば商材メリットを提示しつつ、いつなら案内できるか伺う
予算がない
【断り方】「高い」「予算が取れない」 【背景】価値はある程度認めているが、投資判断ができない。予算取りが終わっており今期はどうにもできない 【対応例】ニーズや予算取りの時期を引き出したうえで、時期をずらして再案内する
決裁権がない
【断り方】「私では決められない」「上司に聞いてみます」 【背景】窓口担当者は興味があるものの、決裁権がない 【対応例】上長含め案内の機会をいただけないか伺う
「切り返し」より「温度感」への理解がポイント
応酬話法の肝と言えるのは切り返し方そのものより、お客様がどんな温度感で対応しているか理解することです。お客様の状態に応じて声のトーン、スピード、間を調整することで、同じ言葉でも与える印象は大きく異なります。
この点に関しては属人的な要素が多く、どうすれば正解かという答えはありません。しかし、自分自身に合った最適解はあります。
電話先の相手により使い分けが必要ですし、人によって最適な方法はまったく異なります。録音を自分で聴きながら練習する、第三者に聞いてもらうなど、意識して改善を重ねることや、様々なシチュエーションを想定しておきましょう。
応酬話法が上手い人・上手くない人の違い
では同じ応酬話法を使っても、なぜ結果に差が出るのでしょうか。その理由としては、声・表現・距離感など属人的な要素も大きくあります。ここではよくある失敗例とあわせて応酬話法が上手い人、上手くない人の違いを見ていきます。
よくある失敗①:圧が強すぎて逆効果
お客様:今は必要ないかな。 営業:いえいえ!それは大きな機会損失ですよ!なぜなら…
応酬話法を切り返しトークと勘違いして使うと、「論破したら勝ち」という圧が強い営業スタイルになりがちです。応酬話法は相手の心理的シャッターを開けるテクニックなので、これだと逆効果になってしまうことも……。
こういう場合は「どういうところがピンと来ませんでしたか?」と再質問法で課題を深堀りしていくなど、ヒアリングに徹するのが応酬話法の使い方が上手い人です。
よくある失敗②:「それって無料ですか?」問題で撃沈
お客様:それって無料でできないんですか? 営業:ええっと、ちょっと上長に掛け合ってみますね(声が小さくなる)
価格や条件面で思わぬ角度から詰められたとき、焦って自分の判断だけで回答してしまうこともあるあるですね。さらに、無料だから、安いからといった理由で商材を選ばれてしまうと、お客様にとっても本質的な課題解決につながらない可能性があり、両者にとってメリットがありません。
応酬話法が上手い人は、まず「無料」で興味を持たれることが本質ではないというマインドセットを備えています。そのうえで無料でできること、有料でできることをはっきりと区別して語れる事前準備も重要です。
成功している人は「返し方」ではなく「聴き方」が上手い
ここまでの例でも提示した通り、応酬話法が上手い人は、返し方ではなく聴き方が上手い人といえます。
お客様:「うーん、ちょっと難しいかな」 営業:「そうなんですね……(あえて間をゆっくり取る)。差し支えなければ、どのあたりが難しいと感じられましたか?」 お客様:「実は、前に似たようなサービスを導入したんですがあまり使わず解約しちゃいまして…」 営業:「あぁ〜、一度解約を……それは慎重になりますよね。なぜあまり使わなくなっちゃったんでしょうか?」
このように「共感→復唱→ラポール形成」の流れを自然に組み込むことこそが、応酬話法を機能させるために重要なテクニックです。
現場で使える!応酬話法マニュアルとアレンジ例
では具体的にどのように切り替えしていけばよいのか。ここからは実際に現場で使える応酬話法について、先方の温度感やシーン別にご紹介します。
「興味ありません」に対する3パターンの返し方
パターン1:冷たい「興味ない」への対応
お客様:「興味ないです」(即答・冷たい) 営業:「承知しました。もし今後〇〇でお困りの際は、お声がけください」
この場合は心証を悪化させないよう、深追いしないほうがよいです。時期を空ければ担当者が変わっている可能性もあるため、次回のコンタクトにつながる可能性もゼロではありません。
パターン2:やんわり「興味ない」への対応
お客様:「うーん、今は興味ですかね〜」 営業:「そうですよね、急に言われても…ちなみに御社の業務だと〇〇がよく発生すると思いますが、今はどんな感じで対応されてますか?」
この場合はお客様がなんらかの課題を抱えている可能性がないか探るチャンスです。こちらも相手の温度感にあわせてやんわりと課題をヒアリングしてみましょう。商談につながるかもしれません。
パターン3:理由付きの「興味ない」への対応
お客様:「うちはもう別の会社のサービス使ってるから、申し訳ないです」 営業:「あ、もう導入されてるんですね!差し支えなければ、使い心地はいかがですか?」
競合サービスを利用しているなど、何か理由付きで断られた場合は、競合情報をさりげなくリサーチしてみるのも手です。もしリプレイスを検討しているようなら、どういった点を課題に感じているかなど自然に深堀りできます。
「今忙しいです」に対する工夫
お客様「すみません今忙しくて……」 営業「分かりました、ではまたあらためてかけ直します。失礼します」
これはよくない切り返しの例です。相手の温度感を伺いながらあらためて時間をいただけないか聞き取り、機会損失を防ぎましょう。
ポイントは空き時間を徹底して聞き出すことです。
やんわりと断られた場合 「お忙しいところ失礼いたしました!もしよろしければ5分だけご案内させていただきたいのですが、このあとお手すきの時間はございますか?」 本当に忙しそうな場合 「本日は難しいですよね……。明日◯時ごろでしたらいかがでしょうか?」
「それって無料ですか?」へのカウンター
「無料?」「安くなるの?」と聞かれた場合は、商材の価値を下げない返答を意識しましょう。経験上、一度安い価格で提供してしまうと、本来の価格に戻して購入してもらうことはかなり厳しいですし、自社の立場も下になってしまいます。
事前に無料でできること・できないことをきちんと定義したうえで、「一部機能は無料」「相談は無料」など切り返しましょう。
お客様:それって無料でできないんですか? 営業:ありがとうございます!初回のご相談と御社に見合ったプランのカスタマイズまでは無料でさせていただいてます。提案内容を聞いていただき、もしご興味があれば有料ですが通常価格よりお安いトライアルでの導入も可能です!
応酬話法は「自分の型」にして初めて使える技術
応酬話法の具体例を紹介してきましたが、結局は「自分の型」を獲得することが重要です。まずはオーソドックスな型を学び、試行錯誤しながら自分の型にしていく守破離の考えで挑戦してみてください。
マニュアル暗記ではなく「言い慣れる」トレーニングまでがセット
トークスクリプトを覚えるときは、マニュアルの文言を一言一句覚えるだけでは不十分で、「言い慣れる」トレーニングまでセットで実施しましょう。
筆者も新人営業の頃はマニュアルを読むことに必死で棒読みになってしまい、「新人さん?なんか頼りないね」とお客様から言われたことがあります。
言い慣れるためにはマニュアル通り覚えずに自分の言葉に置き換えたり、様々なシチュエーションを想定してロープレを重ねることが重要です。
ちなみに筆者が代表を務めるJYMでは「やんないよロープレ」という手法をおすすめしています。「あーうちは結構です」という拒否から始まり、ここに営業役が続ける形で二度目のクロージングまでのパートを行うトレーニングです。
アポが取れた時の自分の返しを記録せよ
何百、何千と電話をかけ続けていると、「このアポが取れた時の電話めちゃくちゃ良かったな」という成功体験が必ず出てきます。忘れないうちに必ずメモや録音で記録して、なぜ上手くいったのかを記録する「自分の価値パターン集」を作るのもおすすめです。
メモの例
【状況】展示会リストへの架電(社名や日時なども記録) 【断り】「今、他社使ってるから…」 【返し】「あ、〇〇社さんですか?実は最近、〇〇社さんから乗り換えられる企業さん増えてるんですよ。もしかして△△の部分でお困りじゃないですか?」 【結果】「え、なんで分かるの?」→アポ獲得
「その場で考えた風」に聞こえるのが理想
応酬話法の使い方の理想形は「練習した感」がない自然体です。トップセールスの会話を聞くと、まるでその場で考えながら話してるように聞こえるんですよね。
でも実は、過去の成功パターンを瞬時に引き出しているだけということも少なくありません。この「即興風の余裕感」を出すことで、お客様にも「この人は信頼できるな」と好印象に感じてもらえるはずです。
応酬話法に「正解」はないが「最適解」はある
応酬話法にはいくつかの型がありますが、型を覚えたからといって誰でもすぐに使えるものではありません。覚えた型を使いこなすことにこそ価値があり、そのためにトレーニングが必要です。
断られるのは辛いです。でも、その「断り」の向こうにお客様の本音があるんです。応酬話法は、その本音にたどり着くための技術であり、使い方の正解はありませんが最適解があります。自分なりの勝ちパターンを見つけて、信頼される営業を目指すための参考になれば嬉しいです。
もし営業スキルを磨いてみたいなと思った方は、私のTwitterのDMまでご相談ください。ここには書いていないテクニックをお伝えさせていただきます。