営業がアポを取り損ねる4つの不【不信・不安・不要・不急】への超実践的対処術
「ああ、うちは結構です」「いまタイミングが悪くて……」「営業ですよね?興味ないです」
テレアポをやっていると、こういう断り文句は本当によく耳にします。「なぜ断られるんだろう?」と悩んでしまうこともありますが、実は断られる理由にはパターンがあるんです。それが不信・不安・不要・不急という「4つの不」です。
この記事では、お客様が抱える4つの不にどう向き合い、どう突破していくかを、これまでの経験を交えながらご紹介します。
アポが取れない理由は「4つの不」に詰まっている
営業でよくある断りには、「不信」「不安」「不要」「不急」という4つの心理的ブロックが隠れています。

商談においては臨機応変さも必要ですが、断り文句のパターンはおおよそ分類できます。パターンを押さえてくと対応方法もある程度固められるものです。
では、それぞれにどう対応すればよいか? 基本的なアプローチを見ていきましょう。
【不信】この人、なんか怪しい!を払拭するには
不信は最初の3秒で決まります。知らない会社の知らない人から電話が来たら、誰だって警戒しますよね。受付の方に「営業の電話でしょうか?」と言われた瞬間、もう終わり。こうならないためには信頼感を一瞬で醸成する必要があります。
信頼感を得るポイントは、名乗り方とトーン、そして空気感です。
たとえば「お世話になっております」の言い方。「お世話になっております。私、株式会社JYMの……」というかしこまった感じではなく、「どうも、いつもお世話になっていますー!」という、初めての電話ではない言葉と馴染みの取引先のトーンで話すと、すでに取引のある会社なのかなと自然に思ってもらいやすくなります。
【不安】アポを取ると損するかも?を解消する
「押し売りされそう」「個人情報が使われそう」
みなさんも知らない電話番号から営業電話があると、そう感じませんか? もし自分にとって役立つサービスの案内だとしても、「騙されていないか」と不安になってしまいますよね。
この不安を解消するには、「あなたのため」という構造を作りましょう。 たとえば、話す順序。いきなり商品説明に入るんじゃなくて、まずは相手の状況を聞き、お客様の課題を深堀りしてみてください。リスクヘッジ感を伝えるなら「もし合わないと思ったら、その場で言っていただいて大丈夫です」という一言を添えるだけで、不安が和らぎます。
このように、「私は商品を売りたいのではなく、あなたの困っていること・課題を解決したい」という姿勢を大切にしましょう。
【不要】ウチには必要ないんだよねー。への向き合い方
「今困ってないです」って言われたときはどうしようもない……というわけはなく、実はチャンス。お客様が気付いていないだけで、課題が潜んでるケースは多いです。
基本的なアプローチは、相手に自ら課題を語らせること。このときに使えるのが、SPIN話法という技術です。
▼SPIN話法 顧客課題を引き出し、その解決策として自社の商品・サービスを提案するためのフレームワーク。4つの質問を順に行う。 ●Situation(現状質問):相手企業の現在の状況や体制、ビジネスプロセスを確認する質問。 ●Problem(問題質問):顧客が抱えている潜在的な問題を引き出す質問。 ●Implication(示唆質問):問題が放置された場合の影響を確認する質問。 ●Need-Payoff(解決質問):解決策の効果や期待されるメリットを顧客にイメージさせる質問
こうすると相手も「あ、確かにそれって問題かも」って自ら気付いてもらえます。こっちから一方的に「これが問題です!」と言っても刺さらないんですよね。この気付きが、「不」を乗り越えるコツです。
【不急】良いけど、今じゃないかな〜への切り返し
「今はそんなに急ぎじゃないから」「もう少し落ち着いてから」というときは、「今すぐじゃなくても価値はある」と感じてもらうことが重要です。
まずは、「今やる理由」を自然に伝えること。お客様のミッションと紐づけたり、市況や時流を伝えたり、他社の動向を示したりと、布石を打つことで「今考えておいた方がいいかも」と、自然に思ってもらうのが重要です。また、この場合は焦ってアポを取ろうとせずともOKです。相手の温度感に合わせて、お客様から「お断り」ではなく「保留」を引き出す感覚を持ちましょう。
「4つの不」を乗り越えるための実践的工夫
ここからは、トークスクリプトでは補えない、もっと属人的な対応のコツ・工夫を紹介していきます。 前提として、ここで紹介するテクニックは「属人的な自分の型として使えるようになる」ことが重要です。自らの経験やキャラクターなどを踏まえて様々な使い方を試し、昇華して初めて効果を発揮します。
第一声の磨き込みで「初速の不信」を防ぐ
不信を防ぐには最初の3秒が勝負。信頼感のある自己紹介の型を作るのが大事です。具体的には自分の名前・会社名・話すスピード・トーンにこだわってください。
たとえばさきほど紹介した「お世話になっております」の言い方の他に、挨拶を組み合わせるのも効果的です。「こんにちは〜、お世話になってます、JYMの橋本です」と一言添えると、既存の取引先感が出て相手に構えさせないようにできます。そして声色も重要です。メラビアンの法則をご存じでしょうか?
▼メラビアンの法則 人のコミュニケーションの中で言語、聴覚、視覚のうち、受け取る情報の影響度を数値化した心理法則。視覚が約5割、聴覚が4割、言語が1割と言われている。
テレアポにおいては視覚がないぶん、聴覚が印象を大きく左右します。話し方の印象をあげるために、筆者がおすすめしている技法が笑声(えごえ)です。笑声とは、口角を上げて1トーン上の声で話す技法のこと。
● 声のトーンが自然に上がる ● 口角が上がって滑舌が良くなる ● 表情筋が動いて声に温かみが出る
と、いったメリットがあります。「〜なんですよ(にっこり)」と言い切るだけで、信頼感のある聞こえ方になりますよ。
相手の言葉の裏を読むヒアリング力
「不安」を乗り越えるにはさきほど紹介したSPIN話法のような技法も使えますが、何より重要なのが断り文句の奥にある本音を察知する力です。顔が見えないテレアポでは、声色・間・トーンでしか読み取れないため、繊細なリスニングが必要になります。
まずおすすめしたいのは、録音を自分で聴いてみること。「喋らなきゃ喋らなきゃ」となり会話に「間」がなかったり、お客様が回答してるのに言葉を挟んでしまう人は意外と多いんです。 もし自分がそうだと感じたら、一拍置くことを強く意識してみてください。スクリプトに「ここで一拍」とガイドラインを入れてあげるのも効果的です。 また、オウム返しも使えます。
お客様:うちは予算が出ないからさ、無理なんだよね。
営業:そうですよね、この手のものに予算ってなかなか計上できないですよね。
と一言添えるだけ。すると「お客様も自分のことを理解してくれてるな」と思っていただける可能性が上がるので、その後の訴求の効力に影響します。
不要感を打ち消す「問いかけ」の差し込みタイミング
「興味ない」と言われた時に「なるほどです、ちなみに〜」と再質問できるかどうかがポイント。でも、押し売りにならないように、クッション+共感+問いかけの三段構えで行きましょう。
よく使うのは、「なるほどです、ちなみに〜」っていうクッション言葉。これで一回受け止めてから相手の気持ちに共感し、具体的な課題を出しつつ質問してみてください。
「なるほどです、確かに今すぐ必要な感じではないですよね。ちなみに御社の場合って、◯◯とか△△みたいな課題感ってあったりしますか?」
ここで「何か困ってることありますか?」というオープンクエスチョンだと、ほとんどの場合「特にない」と言われます。でも、事前にリサーチをしておき「御社の場合って◯◯とか△△みたいな課題感ってあったりしますか?」と具体例を出すと、「あー、うちだと◯◯はそうですね」と回答を引き出せます。
相手の状況を一つ質問で引き出し、その情報をフックにアポ打診に持っていく。この流れをマスターできると、アポ率が跳ね上がります。
「不急」には未来視点の事例でゆるく引き寄せる
「すぐにはいらないかな……」という相手には、無理にアポを取らず布石を打つ営業の工夫が大事です。「今でなくても、近い将来でニーズが出てきそうな業界の話」を出せると説得力が増します。この場合は、他社の事例や業界のトレンドを例に出す第三者話法が使えます。
●「実は最近、この業界だと法改正の影響で◯◯を見直す企業様が増えてまして」 ●「繁忙期に入る前に準備されてる企業様が多いんです」
このように市況から適度な緊張感を伝えて「今やった方が得」と思ってもらえれば、興味をもってもらうきっかけになります。
また、ナーチャリング(見込み育成)の観点も意識しましょう。無理に押して断られるよりも、複数回アプローチをする仕込みをしておくことが大切です。具体的には、「では、また落ち着いたタイミングでご連絡させていただいてもよろしいですか?」と、次回の電話コンセンサスを得ること。ゆるく引き寄せて、タイミングを待つという戦略も、立派な営業の型です。
「4つの不」は顧客の立場でも変化する
「4つの不」は一律じゃなくて、相手の役職や状況によって、現れやすい「不」の傾向が変わるんです。営業トークは「誰に、どんな立場で刺さるか」を意識して調整すべき。ここ、めちゃくちゃ大事です。
現場担当は「不安」「不要」に反応しやすい
実務に関わる担当者は「業務負担が増えるのでは?」「これは本当に使えるのか?」といった不安や、「今使ってるツールで十分」といった不要感を持ちやすいです。
そこで、担当者が何を不安に思っているかに寄り添い、使い勝手の想像を促す話法が有効です。「導入後の手間がほとんどない」「サポート体制が充実してる」など、担当者の視座で安心材料を具体的に伝えたり、他社の事例を紹介したりしてみてください。
たとえば勤怠システムが商材なら、顧客となる労務担当者は「システムの入れ替えの際に従業員に使い方を説明する工数が発生する」「期日があるなかで何度も社内からの質問やエラーに対応する必要がある」など、導入後のエラーが気になっていることが多いです。
そこで「御社の場合、今◯◯でやられてると思うんですけど、それって△△の時に手間かかりませんか?」「うちのサービスならその業務が10分で終わるようになりますよ」と、具体的な業務フローに落とし込んで話すだけでも印象が変わります。
マネージャー層は「不急」が多く、「不要」には敏感
管理職層は「今それどころじゃない」「効果の割に手間がかかりそう」など、時間軸と投資対効果の視点で断る傾向があります。ここで有効なのは、「今後の課題解決」や「他社事例」を使った未来思考で刺すトーク。「部の効率化」とか「部の売上向上」っていう、マネージャーが追ってるKPIに直結する話をしてみてください。
そのためには数字の活用も大事です。「導入企業様の平均で、営業の生産性が◯%向上してます」「投資回収期間が平均◯ヶ月です」など、ROI感覚を前提にした会話設計をすると、マネージャーの食いつきは全然違います。コストダウンの話も、マネージャー以上には刺さります。逆にメンバークラスにはむしろ稟議の手間と天秤にかけられるため、黄色信号です。相手のミッション、立場によって訴求の内容を変えましょう。
経営層・決裁者は「不信」や「不急」で跳ね返す
経営層は「この会社・この人を信用できるか」「この人に時間を取る価値があるか」をシビアに見られます。そのため、声の印象、入りの一言、企業としての社会的信頼など、属人的かつ非言語的な要素が重要です。
たとえば「◯◯社様や△△社様の代表の方ともお話しさせていただいている内容なのですが」と、同業や同規模の社名を出してみると、「あ、そのレベルの会社が話を聞いてるなら」と思ってもらえるかもしれません。また、信頼感を勝ち取るためには「◯◯という法改正も控えていますよね。このタイミングで準備が必要なことをぜひお話したいと思いまして」とタイミングの必然性を伝えるのも有効です。
「4つの不」を「信・安・要・急」に変える視点

営業は結局のところ、人と人との対話です。具体的なテクニックよりも、自分らしさを出して信頼感を出してもらえれば、人の感情は必ず変わります。
ここでは「不信→信頼」「不安→安心」「不要→必要」「不急→今やるべきこと」へと、ネガティブな感情をポジティブに転換していくための思考法を紹介します。
「不信」→「信頼」へ:声・言葉・空気で人間力を伝える
電話コミュニケーションは視覚情報が欠ける分、顧客が耳で受け取る「印象」が先方の判断に大きく影響します。相手に信頼されるには、「いい声」「自然な言葉」「感じの良さ」が必要です。
信頼感のある入り方としては、枕詞トークで受付の心理的ハードルを下げること。「失礼ないように伺いたいのですが」「お答えいただける範囲で構わないのですが」といったへりくだりだけでなく、「ストレートに聞いてしまうのですが」「釈迦に説法ですが」という自分らしさのある一言を挟むだけでも、相手の構えが解けます。
また、「なぜこの電話をしているのか」を簡潔に添えることで、受付の方の納得感を上げることも大切です。こうした工夫の組み合わせが、「営業電話」を「コミュニケーション」に変えていきます(筆者も受付のお姉さんに「営業じゃなくてちゃんと人間っぽい人初めて見ました」と言われた経験があります)。
「不安」→「安心」へ:リスク回避型の共感トーク
不安に感じている方には、まず共感を示しましょう。「そうですよね。ご心配な点はもっともです」といった一言から、押し売りじゃない感を作り、構えを解くテクニックが使えます。
第三者の成果や事例・意見を挟む第三者話法も有効です。「実は他の企業様も最初はそうおっしゃっていたのですが……」「御社と同じ業界の企業様にも導入いただいて.…..」という言い回しをうまく使えると、相手の共感と納得感を引き出せます。
事例を使う場合は、単なる数字や実績を語るだけでなく、感情面にフォーカスするトークもポイントです。「最初は不安が大きかったらしいんですが、いまはすごく喜んでもらえてて」など、成功した嬉しさや前向きな変化などを語ることで、信頼と共感を引き出すストーリートークになり、より共感を得られやすくなります。
「不要」→「必要」へ:気づいてないニーズに光を当てる
「今はいいかな……」と言われても、相手が気づいていない課題が潜んでるケースは多いです。SPIN話法のS→P→I(状況→問題→示唆)の流れを使いながら、相手に自ら課題を語らせるような聞き方を心がけましょう。例えば求人の営業なら、
S(状況質問):「今募集してる職種って何ですか?」 P(問題質問):「母集団集まらなかったりしますよねー」 I(示唆質問):「現場負荷かかって離職リスクが出ませんか?」
という順序で聞くことで、相手から課題を語ってもらいやすくなります。
「不急」→「今、やる理由」へ:タイミングの演出
「後回しでもいい」ということは「不要ではない」ということです。市況・法改正・繁忙期回避など、お客様の業界に応じたトレンドを伝えることで「今やった方が得する」というマインドになってもらえればいいですね。
相手に考えさせるために、間をしっかり取るのもテクニックです。タイミングの話をした後に2〜3秒黙ってみて、相手が「確かに、そうかもしれないですね」と言い始めたら、逆転できます。
それでもアポが取れそうにない場合は無理せずに、ナーチャリング(見込み育成)との接続も意識しましょう。案件が動きそうな「小さな予兆」を引き出す質問として、「ちなみに、今期の予算ってもう決まってたりしますか?」「新年度に向けて何か動きそうなプロジェクトってありますか?」など聞いてみてください。
「4つの不」は、自己流の工夫で乗り越えられる
ここまで「4つの不」について色々お話ししてきましたが、結局は「誰が、どう話すか」という属人性が一番重要です。型だけでなく、型と感覚の両立が必要です。
笑声が得意なAさんと論理的な説明が得意なBさんがいれば、たとえ同じスクリプトを使っていてもそれぞれの強みを活かした自分なりの型に昇華していく必要があります。失敗の数だけ成長できると考えて、どんどん実践してみてください。
もっと詳しく知りたい方、一緒に営業の課題を解決したい方は、ぜひ私のXへDMしてください。現場のリアルな知見をお伝えします。