「で、結局なんの話?」とならないために―インサイドセールスで刺さる「ファクトファインディング」の極意

橋本陽介
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「質問してるのに全然会話が深まらない」 「ヒアリングで何を聞いても本音を引き出せない」

インサイドセールスに携わっていると、こんなモヤモヤを感じたことはありませんか? もしそう感じている方がいれば、質問の「仕方」ではなく「聞き出し方」を変えると、ヒアリングの効果が大きく変わります。

そこで役立つのが、ファクトファインディングという手法です。今回は1,000社以上のセールス支援経験のある筆者が、ファクトファインディングのコツについてお伝えします。

 

ファクトファインディングとは「聞き出す技術」

ファクトファインディングとはその名の通り、顧客や市場の「事実(Fact)」を「見つけ出す(Finding)」こと。ひいては、「意思決定に必要な事実を引き出す技術」を指します。

専門用語として聞くと「一定のフレームワークに沿った型があるのでは?」と思われるかもしれませんが、実際はかなり属人的な技術でもあります。

「ファクトファインディング=ただの質問」と思ってません?

よく「ファクトファインディング=ヒアリング=質問すること」だと思われがちですが、それは違います。大事なのは「何を聞くか」より「なぜ聞くか」「どう受け止めるか」という視点です。

ファクトファインディングの本質は、相手の行動や課題の裏にある情報を得ること。つまり、この段階では顧客の「YES/NO」を取ることではなく、「状況や背景」を把握することがゴールになります。まずはここを押さえましょう。

アポ率に直結する「ヒアリング」と「納得」の関係

状況や背景の整理が必要だからといって、「いま御社で何か課題はありますか?」と聞いても「うーん、特にないです」で終わってしまいがちです。重要なのは聞き方で、顧客心理をつかむためには「傾聴+質問設計」の力が不可欠です。

構造としては、「聞く」→「自分ごと化させる」→「納得する」→「アポにつながる」という流れを築くこと。この流れを意識できているかどうかで、コンタクトアポ率は大きく変わってきます。

例えば、こんな会話の流れです。

セールス:「〇〇さんは採用業務も担当されてるんですよね?」(事実確認)お客様:「そうですね」

セールス:「ちなみに、採用を進めていく中で、例えば母集団が集まらないとか、内定辞退が多いとか、そういった課題感ってありますか?」(聞く+誘導)

お客様:「ああ、内定辞退はちょっとありますね…」

セールス:「そうですよね〜。この時期、内定辞退って増えますよね。万が一取れなかった時って、案件の取りこぼしとか、現場への負荷って発生しませんか?」(自分ごと化させる)

お客様:「いや、まさにそれが困ってて…」

セールス:「ということは今回の内容って、〇〇さんにとって結構重要な内容なんですね」(納得を引き出す)

お客様:「そうですね、重要ですね」

セールス:「であれば、その課題を解決できた事例を少しお話しさせていただきたいんですが、〇日か〇日でお時間いかがですか?」(アポにつなげる)

このように、単に質問するだけでなく、相手が「確かにそれ、自分の問題だな」と感じるところまで持っていくのがポイントです。「話を聞いてくれた」と感じてもらえると、自分や会社に対して好印象を持っていただきやすくなります。

ファクトファインディングとSPIN・BANTの違い

ファクトファインディングに関連する用語として、SPIN話法やBANT情報があります。

SPIN話法とは 顧客の課題を引き出し、その解決策として自社の商品・サービスを提案するプロセスを体系化したフレームワーク。SPINは4つの質問の頭文字を取ったもので、この流れに沿ってヒアリングを行う。 ・S(Situation:現状質問) ・P(Problem:問題質問) ・I(Implication:示唆質問) ・N(Need-Payoff:解決質問) SPIN話法の詳細はこちら(SPIN話法の「聞く力」で信頼を勝ち取るインサイドセールスの極意)の記事で解説しています。

BANT情報とは B(Budget:予算)、A(Authority:決裁・権限)、N(Needs:ニーズ)、T(Timeframe:時期)という、アポイントの質を高めるために必要な情報。 BANTの詳細はこちら(BANT情報、集めることが目的になってない?営業定番フレームワークのポイントは「聞き方」)の記事で解説しています。

SPIN話法が「順を追って気づかせる」設計なら、ファクトファインディングは「広げてから、掘る」イメージとなります。

ファクトファインディングもSPIN話法も、必要な情報を引き出すために使うテクニックですが、万能な型ではありません。手法を混同したり型にはめて使ったりするよりも、相手の反応を見ながら柔軟に情報を引き出していくことが重要です。

「聞けてない」インサイドセールスのあるあるNGパターン

ヒアリングにおいて、顧客の課題や背景は、実は聞けているようで聞けていないポイントになりがちです。ここからは「聞けていない」インサイドセールスのあるあるパターンを紹介します。

①質問が浅い:「課題ありますか?」→「ないですね」の壁

これは経験上、本当に多いです。「何かお困りごとはありますか?」と抽象的な聞き方をすると、ほとんどの場合「うーん、今はないかな」で終わってしまいます。

顧客は知らないことや答えづらいことを聞かれると「わからない」「ない」と回答する傾向があります。浅い質問は、断り文句を誘発してしまうので、むしろしない方が賢明です。

まずは聞き方を見直しましょう。「課題ありますか?」ではなく「最近〇〇について見直しされたことあります?」「いま御社の業界は◯◯の課題がありますよね」など、課題の例をこちらから出し、回答を誘導するのがコツです。

②順番がおかしい:「それ、いきなり聞く?」問題

質問の順序設計が悪いと、相手の心の扉を閉じてしまいます。「このツール使ってます?」「◯◯でお困りごとあります?」というのはセールスの現場でありがちな質問ですが、これって顧客のことを考えていなくて、完全に自分の都合に偏った聞き方になっています。

基本は、顧客が答えやすいものかつ、知っているものから聞いていくのがセオリーです。特に大手企業の担当者にアポを取る場合、いきなり予算や決裁の話をしても意味がありません。

筆者が推奨しているのは、N(ニーズ)→T(時期)→B(予算)→A(決裁権) の順でのヒアリングです。ニーズや社内のリソースなど、担当者が知っていて答えやすいものから情報を埋めていく構成にしましょう。また、スクリプト通りに進めるのではなく、会話の流れで臨機応変に順序を変えたり、ときには無理に聞かないことも大切です。

③質問意図が伝わらない:「で、何が言いたいの?」と逆質問で詰む

セールス:〇〇さんの部署って何名くらいですか?

お客様:えーと、10名ですね。

セールス:なるほど。ちなみに今使ってるシステムって何ですか?

お客様:〇〇ってやつですけど。

セールス:そうなんですね。業務フローってどうなってます?

お客様:これ何の話ですか?何が聞きたいんですか?

こういう失敗を経験した方もいらっしゃるのではないでしょうか。これはヒアリングの流れがゴールに向かっておらず、質問の意図が伝わっていないからです。

基本的には「ヒアリングの目的」→「興味を引く導入」→「掘る質問」という設計が必要です。例えば以下のようなイメージです。

セールス:少し深掘りしたいのですが、〇〇さんの部署って何名くらいで運用されてますか?

お客様:10名ですね

セールス:なるほど、実は同じくらいの規模の◯◯社さんだと、◯◯の業務で属人化が起きてるって話を聞いたんですよね。御社ではそのあたりっていかがですか?

お客様:ああ、確かにうちも一部の人に偏ってる部分はありますね……。

セールス:やっぱりそうですよね。ストレートに聞いちゃうんですけど、それって〇〇さん的には課題だなって感じてます?

スムーズな誘導のために活用したいのが「枕詞」や「クッション言葉」です。例えば、聞きづらい質問をサラッと聞きたいときは逆に「ストレートに聞いちゃうんですけど〜」という枕詞がハードルを下げてくれる場面もあります。特に予算や決裁など、ヒアリングハードルが高いものを聞く際に有効です。

アポにつながるファクトファインディングの手法例

ここからは、実際にアポにつなげるためのファクトファインディングの手法を掘り下げていきます。

「問い」は用意し、「反応」はその場で拾う

事前に顧客の情報を調べて良い質問を用意することも大事ですが、もっと重要なのは「拾い方」です。スクリプト通りに進めるのではなく、相手のトーンや返答に応じて深掘り軸を変えていく柔軟性がポイントになります。

実際の会話でどう「拾う」かを見てみましょう。

セールス:「〇〇さんのお困りごとって皆さん共通の課題感として認識されていらっしゃるんですか?例えば上司の方とか」

お客様:「どうでしょう、上司とはちょっと違うかもしれないですね」

セールス:「そうなんですね、(ここで拾う)ちなみにどんなところが違う感じですか?」

お客様:「上はとにかく効率化しろって言ってるんですけど、現場的には意見が違っていまして……」

このように、相手の「ちょっとした本音」を拾って深掘りしていくことこそが、ヒアリングの場では重要です。

オウム返し+ちょい足しで自然に掘る

共感しつつ話を膨らませる技術として、「オウム返し+ちょい足し」があります。相手の言葉をそのまま返す+状況を深掘ることで、会話を自然に進めていくテクニックです。

例えば「うちは予算が出ないから、無理なんだよね」と顧客に言われたとき。

NG例 セールス:「そうですか……ただ、今回のサービスは〜」 (食い気味で反論。自社都合で話している)

⭕OK例(オウム返し+ちょい足し) セールス:「そうですよね、こういうツールに予算ってなかなか計上できないですよね。ちなみに、予算が出ないっていうのは、今期の話ですか?それとも会社として難しい感じですか?」 (受け止めてから深掘りする)

このように一旦受け止めたうえで質問を重ねることで、顧客がアポインターのことを理解者だと感じてくれる可能性が上がります。

「共感+確認」のクッション言葉を活用

少し上級者向けになりますが、YESセット法・共感トーク・枕詞を融合させたトーク例を紹介します。

YESセット法は、会話の中で小さなYESを複数回相手に言わせることで、大きなYESをもらいやすくする話法。細かい同意を重ねると共感が湧き、YESと言いやすくなる心理を活用しています。

この流れで共感しながら深掘りしていくと、顧客は自然と情報を開示してくれるようになります。

セールス:僕も同業種の会社さんに話を聞いたことがあるんですが、この業界って離職率が高いんですよね?(共感+確認)お客様:そうですね(小さなYES①)

セールス:御社も求人出されてましたよね。ストレートに聞いちゃうんですが、今って◯◯の職種の採用に力入れています?(聞きづらいことを聞く枕詞)

お客様:ええ、まさに(小さなYES②)

セールス:ですよね!実はそうした現場に対して、弊社は採用課題を解決した実績を多く持ってまして〜

このように「この業界ってやっぱり〜じゃないですか」「この時期って〜ですよね」といった断定推量を2〜3回挟むことで、小さなYESどりをしていくのがコツです。業界知識などと組み合わせることで、「この人はうちのことわかってるな」と思ってもらいやすくなります。

ファクトファインディングを活かせる営業と活かせない営業

ここまでテクニックも含めご紹介してきましたが、結局最後は属人的なスキルが重要です。では、ファクトファインディングを活かせる営業と活かせない営業にはどんな差があるのか。それぞれの特徴をご紹介します。

活かせる人:空気を読み、流れをつなぐ力がある

ファクトファインディングを活かせる人には3つの特徴があります。

  • 話の余白に気づき、会話のリズムをつくれる
  • 話の流れを捉えて、次の質問につなぐ力がある
  • トライ&エラーを繰り返してPDCAを回せる

これはスクリプトで身につくものではなく、顧客の反応を見ながら訴求内容を変えられる柔軟性があるかどうかがポイントです。相手の役職やミッションによって興味を持つポイントは違うので、それを瞬時に見極めて話を展開できる人は、ファクトファインディングを活かせる強い営業といえます。

例えば、役員クラスは会社全体の売上や株価向上に興味があり、メンバークラスは自分の売上や効率化、稟議の手間の有無に興味がある傾向があります。できる営業はこの違いを話の中で理解して、その人に応じた質問をおこなえるんです。

活かせない人:会話をなぞることに必死

逆に「質問→答え→次の質問」と機械的に進めてしまう人は、ファクトファインディングを活かせません。「話は聞けたけど、何も本音を引き出せなかった」という残念な結果になりがちです。

相手の「間」を無視するとBOT感が出て距離が遠のいてしまいます。特にスクリプトをそのまま読んでしまうと、相手が回答しているのに次の質問をしてしまうなど、顧客の心証も悪くなる可能性があります。

改善のポイントとして、声のトーン、間の使い方、反応への即興力など、非言語要素を意識してみてください。無理に次の話に進めようとせず、沈黙ができても一拍置くなど、コミュニケーションの方法を変えてみることも大切です。

差が出るのは「問い方」より「受け止め方」

筆者としては、差が出るポイントは「問い方」より「受け止め方」にあると考えています。

ファクトは引き出すものではなく、拾いにいくものです。相手が返した言葉にどれだけ熱量を乗せられるか。顧客心理を想像しながら会話を進める感度が重要です。

すぐに使えるファクトファインディング3つの小技

最後に、明日から試せるファクトファインディングの小技を3つ紹介します。

①「ちなみに〜ってされたことあります?」の導入法

圧をかけずにスムーズに掘れる、最強のファーストタッチです。話を深掘りしたいとき、柔らかく聞けて導線になります。

例えば、「ちなみに〇〇について見直しされたことあります?」という聞き方。「課題ありますか?」と直接聞くよりも、相手も構えずに回答しやすく感じませんか?この「ちなみに」という枕詞は汎用性が高いので、ぜひマスターしてください。

②「あ、それめっちゃわかります」→「で、実際~って?」の流れ

共感トーク→深掘りの王道ルートです。YESセット法との組み合わせを意識してみてください。

「あ、それめっちゃわかります。この業界だとよくありますよね」→「で、実際御社はそういうときってどう対応されてるんですか?」

この流れで、顧客は「この人はわかってくれる」と感じながら、自然と情報を開示してくれます。共感の後の「で、実際〜」がポイントです。

③「他社では~ですが…御社では?」の疑問形事例トーク

「他の会社だと〜と言われることが多いんですが、御社ではいかがですか?」という感じで、第三者話法で顧客の警戒心を下げて比較心理を刺激するテクニックです。情報提供+共感+ヒアリングの3点セットになります。

特にバックオフィス系など、起案者ではなく判断者になるタイプの方は自分の意見がないため、欲しい回答を得られないケースがあります。この第三者話法を使って回答をこちらで誘導してあげることが、YESどりやヒアリングの内容を充実させるのに有効です。

人は判断をする際に必ず比較対象が存在します。過去の購買体験などと比較した上で、目の前の選択肢について無意識にYES/NOの判断をしているんです。だから「他社では〜」という情報を先に提供することで、比較軸を設定してあげると相手も話しやすくなります。

インサイドセールスの極意は「質問で信頼を生む」こと

ファクトファインディングは「何を聞くか」よりも、「なぜ聞くか」「どう受け止めるか」が重要です。顧客の「話を聞いてくれた」「この人はわかってくれるな」という共感こそが、信頼と納得感を生み、アポにつながっていきます。

今回紹介したテクニックはあくまでも一例です。型に頼りすぎず、自分の営業スタイルをつくるプロセスこそが成長であり、営業を楽しいものに変えるきっかけになると僕は思っています。

もし「もっと具体的なトーク事例が知りたい」「自社の商材に合わせたスクリプトを作りたい」という方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご相談ください。1,000社以上を支援してきた経験を活かし、サポートさせていただきます!

橋本陽介
代表取締役

制作会社でインサイドセールスの構築および販売実践。その後広告代理店にて国内大手から、スタートアップまで200社以上のプランニングを手掛け、部門売り上げ倍増などの成果を元に事業責任を歴任。続くSEOコンサルティング会社で広報採用、アフィリエイト事業の責任者を歴任し社外取締役に就任、並びにJYMを設立。

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