営業も恋愛も、会えば会うほど距離が縮まる?ザイオンス効果を使いこなすインサイドセールス術

橋本陽介
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「最初は何とも思っていなかったのに、気づいたらあの人のことが気になっていた」——そんな恋愛あるある、みなさんも経験ありませんか?

実はこれ、心理学では「ザイオンス効果」と呼ばれる現象です。繰り返し接触することで好意が生まれるこの効果、実は恋愛だけでなく、営業にもバッチリ活用できます。

ただ、恋愛と同じで「やりすぎると逆効果」なのも事実です。そこで、セールス支援を行っている弊社の知見を交えつつ、ザイオンス効果をインサイドセールスで活かすためのポイントを解説します。接触の質と回数をちょっと意識するだけで、アポ率がじわじわ変わってきますよ。

 

ザイオンス効果とは?「接触回数と好意」の心理学

ザイオンス効果とは、同じ人や物に繰り返し接触することで、その対象への好意や親近感が高まる心理現象のこと。心理学の世界では「単純接触効果」とも呼ばれています。

この名前は、アメリカの心理学者ロバート・ザイオンス博士の研究に由来しています。もともとは広告やマーケティング、恋愛研究で注目されていましたが、今や営業の世界でもガンガン応用されています。

繰り返し会うことで好意が生まれる「単純接触効果」の仕組み

人間って面白いもので、「見た回数=親しみ」につながります。最初は「この人誰だっけ?」だったのが、何度か顔を合わせるうちに「あ、またこの人だ」になり、やがて「なんか親しみやすい人だな」に変わっていく。

これは脳が「繰り返し見るもの=安全なもの」と認識するからと言われています。人間の本能として、知らないものには警戒心を抱き、知っているものには安心感を覚える。だから、何度も接触することで「この人は危なくない」という信号が脳に送られて、自然と好意につながっていくわけです。

BtoBにも効果あり!インサイドセールスこそ使いこなすべき

「でも、それってセールスで活かすといってもBtoCの話でしょ?」

と思った方もいらっしゃるかもしれません。 いいえ、BtoBでも十分に効果を発揮できます。というのも、人は理屈よりも「印象」で意思決定する生き物だからです。

筆者もさまざまな現場を経験してきましたが、アポイントを取るという行為は業種業態を問わず、最終的には「電話先の個人が電話元の個人にアポを取る」というCtoCのコミュニケーションに近いんです。会社対会社ではなく、最後は人対人の勝負です。だからこそ、良い印象の積み重ねは強い武器になります。

考えてみればインサイドセールスは顧客との最初の接点を担い、複数回アプローチする仕事ですよね。だからこそ、この一連の流れを適切に進められれば、ザイオンス効果の恩恵を最大限に受けられる可能性が高まります。

親しみ≠馴れ馴れしさ、「接触の質と回数」のバランスが重要

ただし、最初に申し上げますが「じゃあとにかく回数を増やせばいいんだ!」と考えるのは間違っています。

親しみと馴れ馴れしさは紙一重です。まだ会ってもいない人から1日に何度も電話がきたり、何通もメールが届いたりすると、みなさんだってうんざりしちゃいませんか? 恋愛と同じで、適切な距離感とタイミングが重要なんです。

例えばインサイドセールスなら、メール→電話→資料送付→フォローコールという流れなら自然に連絡できます。このように、接触の「量」だけではなく「質」も意識することが、ザイオンス効果を活かす秘訣です。

ザイオンス効果を活かしたインサイドセールスのアプローチ術

では、ザイオンス効果を最大限に活かすためには、どんなふうにアプローチすればいいのか。接触回数の積み重ねを戦略的に行う方法をご紹介していきます。

回数は「3回」が第一関門、「10回」で印象が定着する?

心理学的に効果が出やすいとされるのが「3回目の接触」です。この「3回」という数字には、広告心理学の研究による裏付けがあります。1972年、ゼネラル・エレクトリック社のハーバート・E・クルーグマン博士は、論文「Why Three Exposures May Be Enough」(なぜ3回の接触で十分なのか)を発表しました。

クルーグマン博士によると、人が情報に接触する際の心理的反応は3段階に分かれます。

  • 1回目:「What is it?」(これは何だろう?)→ 存在を認知するだけ
  • 2回目:「What of it?」(で、自分に関係あるの?)→ 自分との関連性を評価
  • 3回目:「True reminder」(あの話だ)→ 記憶に定着し、行動を検討し始める

インサイドセールスでも同じで、1回目の電話は「誰?何の用?」、2回目は「また電話してきた、どうせ営業でしょ」、そして3回目でようやく「ああ、あの件ね」と認識してもらえます。この3回目を突破できるかどうかが、ザイオンス効果を発動させる最初の分岐点なんです。

一方で、接触回数が10回を超えると、効果が横ばい、または低減するという研究もあります。多ければ多いほど効果が増えるわけではないということを押さえておき、3回目で勝負を決める心構えを忘れないようにしたいものです。

参考論文:単純接触効果研究の動向と展望(大阪大学大学院人間科学研究科紀要)

営業スクリプトにも接触の連続性を組み込む

アポを取るとき、初回の打診で言いたいことを全部伝えようとしていませんか? 最初にもお伝えしたように、無理に接触しようとするとむしろ逆効果になり得ます。

そこでアポが取れなかった時に備えて、次回のコンタクトにつなげられるように営業スクリプトにも接触のポイントを仕込んでおきましょう。例えば終話の前なら「また来週お電話してもいいですか?」「○○の資料、送らせてもらってもいいですか?」——こういう一言があるだけで、次の接触への伏線が張れますよね。

フォローコールでも「前回のお話、覚えてますか?」と継続性を演出するだけで、相手の中での「ああ、この人か」と思ってもらえるので、安心感もグッと増します。

「忘れられない人」になる印象を残す3つのポイント

ザイオンス効果で「また会いたい」と思ってもらうには、ただ回数を重ねるだけではまだ足りません。いかにして相手の印象に残る存在になるかを考えることが大切です。

そのために重要なポイントを3つご紹介します。

1. 声の印象(トーン・スピード)

電話は視覚情報がない分、耳で受け取る印象が判断に大きく影響します。メラビアンの法則によると、視覚が約5割、聴覚が4割、言語が1割という比率で人の印象が決まります。電話では視覚情報が抜ける分、声の印象がいっそう重要です。

まずやるべきなのが、録音して内容を聞き返すこと。録音は気づきの宝庫です。「自分、思ったより暗いな」「もうちょっと自信持って話したほうがいいな」と、気づいたことはどんどん改善していきましょう。

2. 一貫した話し方(論理や伝え方の軸)

アポ取りのときに毎回言っていることがバラバラだと「それって何の件でしたっけ?」と思われがちです。伝え方に軸を設けて、一貫性のある話し方を心がけることで「あ、この人はこの件の人だな」と覚えてもらいやすくなります。

商材の案内方法を工夫するだけでなく、名乗り方やトーンまで気をつかえるとなおよいです。

3. 「この人、ちゃんと見てくれてる感」のある対応

地味ですが効き目があるのが、相手の名前を呼んだり、前回の話の内容に触れたりすることです。「ちゃんと覚えてくれてる」と思ってもらえると、信頼感が一気に上がります。

「お忙しいのは重々承知の上ですが、◯◯様の部署ですと△△を目標として追われていることが多いじゃないですか」など、相手の業界・職種ならではの課題にふれるのもおすすめです。

逆効果になる3つのNGパターン

ザイオンス効果は一歩間違えば逆効果になり得ます。知らず知らずのうちにNGパターンを連発してしまっていることもありがちです。ここでは主な失敗例を3つご紹介します。

無理な押し売りに聞こえると一発アウト

接触頻度が高すぎると、親しみどころか「ウザい」と感じさせてしまいます。相手にとって「時間をあげる価値がある」と思ってもらえるかどうかです。そのために大事なのは、絶対に押し売りをしないこと。もし相手にネガティブなリアクションが見られたら、引いてみるのも戦略です。

「しつこい」と「親しみ」は紙一重。押し売り感が出た瞬間、今までの積み重ねが全部パーになるため、くれぐれもご注意ください。

毎回同じ内容は逆効果となる「またその話?」問題

接触回数を重ねるうえで、情報や話題をアップデートすることも必要です。

毎回同じトークをしていたら、「またその話?もういいよ」と思われます。資料の追加、他社事例の紹介、新機能の案内など、コンテンツに変化をつけ、会話を続けることを意識してください。

会話が続くということは、相手にとって価値のある情報を提供できているということ。毎回新しい何かを持っていく意識が大切です。

関係構築が浅いまま急に攻めると警戒される

ザイオンス効果は一気に効果が出るわけではなく、あくまでも「じわじわ来る」ものです。関係性が浅いうちにいきなりアポに誘導すると「営業ならいいです」と警戒されます。恋愛で言えば、2回目のデートでいきなりプロポーズするようなもので、段階を踏まないと相手は引いてしまうんです。

上手くいかないと感じたときは、、階段を一段ずつ上っていくイメージでコンタクトを取っていくのがおすすめです。たとえば最初は情報提供、次は軽いヒアリング、そしてアポ取得という流れで、心理的ハードルを下げるためにザイオンス効果を上手く使いましょう。

すぐに使える!ザイオンス効果を活かす接触戦略3選

ここからは実践的なTipsをご紹介します。どれも今すぐに試せる内容なので、ぜひ取り入れてみてください。

【メール】件名で”見たことある人”になる

受信ボックスにズラッと並ぶメールの件名。その中に「この人、いつも件名に名前を書いてるな」と思った経験はありませんか?

実はこれもザイオンス効果の活用例です。「あ、またこの人だ」と認識してもらうために、自分なりのメールの型を作ってみてください。特に件名の統一感がポイントです。例えば、毎回「【JYM橋本】〇〇の件」という形式にするだけでも、視認効果が上がりますし、自分の名前を前方に持ってくることで、「あ、またあの人からだ」と一瞬で認識してもらいやすくなります。

開封されなくても、件名を見るだけで接触回数の積み上げになります。これも立派なザイオンス効果の活用法です。

【電話】1回目と違うトーンで印象の更新を狙う

2回目以降の電話、1回目とまったく同じトーンで話していませんか?声のトーン、言葉選び、導入のバリエーションで「進化してる感」を演出してみてください。

単純接触効果は「同じ刺激の繰り返し」より「少しずつ変化する刺激」のほうが効果が持続しやすいとされています。つまり、接触ごとに「小さな変化」を加えることで、好意度上昇のカーブを維持できるわけです。

【資料送付】あなただけ感を出すパーソナライズのひと手間

資料を送るとき、テンプレートのメール文面をそのまま送るのは少しもったいないです。送る相手に最適化した内容を加えて、「あなただけ」感を演出するのがおすすめです。

「先日お話しした〇〇の件も資料にまとめました」「前回おっしゃっていた△△について、参考になりそうな事例を添付しました」——こういう一言があるだけで、「覚えてくれてる感」が生まれます。

相手は「自分のために準備してくれたんだ」と感じるし、信頼感にもつながります。ちょっとしたひと手間をかけるだけで、ザイオンス効果がより高まるのです。

ザイオンス効果は「人間としての姿勢」がにじみ出る

ザイオンス効果は、テクニック以上に「人間としての姿勢」がにじみ出るものです。印象に残る営業は、話し方、距離感、空気感、すべてを大事にしています。継続的な接触のなかで自分という人間を信頼してもらう、関係構築が目的だということを履き違えないようにしましょう。

回数を重ねるなら「この回は何のため?」と自分に問いかける意識を持ってみてください。その姿勢こそが信頼を生むインサイドセールスの武器になります。

もっと詳しい営業ノウハウが知りたい方は、ぜひ筆者のSNSもチェックしてみてください。一緒に成果を出していきましょう!

橋本陽介
代表取締役

制作会社でインサイドセールスの構築および販売実践。その後広告代理店にて国内大手から、スタートアップまで200社以上のプランニングを手掛け、部門売り上げ倍増などの成果を元に事業責任を歴任。続くSEOコンサルティング会社で広報採用、アフィリエイト事業の責任者を歴任し社外取締役に就任、並びにJYMを設立。

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