『結構です』で終わらせない!SPIN話法の「聞く力」で信頼を勝ち取るインサイドセールスの極意
「結構です」「今忙しいので」
最後まで話す前に断られる……。ちゃんと準備したのに、話せば話すほど相手の温度が下がる感じ、地味にツラい。一方で「質問型営業がいい」なんて言葉はよく聞くけど、何をどう聞けばいいのかわからない。
この記事では、インサイドセールスにおける潜在ニーズの引き出し〜サービス提案につなげるフレームワーク「SPIN話法」を解説。テンプレを覚えるだけじゃなく、自分の型として“会話で使える形”にするためのポイントを紹介します。
SPIN話法とは「質問で売る」営業の型
SPIN話法とは、4つの質問によるヒアリングを通じて、顧客の潜在的なニーズを引き出し、解決策として自社の商品・サービスを提案するフレームワーク。ざっくり言うと「質問を重ねながら、相手の本音やニーズを自然に引き出していくやり方」です。いきなり商品を売り込むんじゃなくて、会話の中で「それ、必要かも」と相手自身に気づいてもらうイメージですね。
イギリスの行動心理学者であるニール・ラッカム氏が考案したもので、Situation (状況質問)、Problem(問題質問)、Implication (示唆質問)、Need-payoff (解決質問)の頭文字を組み合わせた言葉です。
実は、営業で何気なく聞いている質問も、この4つに当てはまることが多いんです。これをフレームワークとして整理して理解すると、「なんとなく聞く」から「狙って聞く」に変わって、ヒアリングがぐっと楽になりますよ。
4つの質問で構成される営業トーク術
ここからは、4つの質問の概要と簡単な使い方を紹介しますね。
【状況質問】 状況質問は、BtoBの営業ではさまざまな側面で使われます。企業の現在の事業環境や組織体制、ビジネスプロセス、サービスに関連する業務ツールやシステムなど確認し、置かれている状況を把握するための質問です。 (質問例) ・〇〇の課題はありますか? ・現在、◯◯の課題にどのようなツールやシステムを利用していますか? ・どのようなプロセスで〇〇の業務を進めていますか?
【問題質問】 問題質問は、顧客が抱えている潜在的な課題や問題点を引き出し、それらを理解してもらうための質問です。多くの場合は、YES か NO で答えられる質問を投げかけることによって、顧客自身が直面している問題を引き出します。 (質問例) ・ツールは◯◯をご利用中とのことですが、効果には満足されていますか? ・今後会社の規模が大きくなったとき、担当者の負担が増えてしまうのではないでしょうか? ・最近、競合他社では〇〇の問題をよく耳にします。貴社もそのような課題はないですか?
【示唆質問】 顧客が抱えている課題がこのまま放置された場合、どのような悪影響やトラブルが起こるか。それらを認識してもらい、解決することの重要性を認識してもらう質問です。 (質問例) ・〇〇の課題は従業員の方々の日常業務への影響も大きくなるようで、残業などにもつながっていないですか? ・今後、〇〇の課題が続くと事業拡大に影響が出ないですか? ・この問題によって他部署や会社全体に影響は出ていませんか?
【解決質問】 抱えている課題が解決された、理想的な状態をイメージしてもらうための質問です。解決することでの効果や期待されるメリットをイメージさせ、自社のサービス・商材提案へ結びつけます。 (質問例) ・◯◯が自動化されて、現状の作業の大部分を削減できるとしたらどうでしょうか? ・自動化でミスが減った場合には、従業員や会社全体にどのようなメリットがありそうですか?
それぞれの言葉の意味と質問例で、なんとなくイメージはしていただけますね。でも、実践はそう簡単じゃないです。質問をして終わりではなく、その後ちゃんと“聞く”。ヒアリング力と傾聴があってこそ、SPIN話法は機能します。
「話す営業」から「聞く営業」への転換効果
SPIN話法は、潜在的なニーズを引き出すヒアリング手法であり、一方的かつテンプレ的な会話では表面的なニーズしか出てきません。相手も気付いていない、奥に潜んでいる真のニーズをいかに引き出すかが重要です。
テレアポをしていると、スクリプトを参考にしたり、過去のアポ成功事例などから、道筋を決めつけてしまうことがあります。そうすると、会話は一方的になり、相手の真のニーズには辿り着きません。スクリプトや事前のリサーチ情報などの準備はしつつも、相手の言葉を聞き、対話をしましょう。
SPIN話法の4つの質問を「使える形」で理解する
ここからは、SPIN話法を実践で使える、具体的な質問例とともにポイントを紹介します。あくまで“聞く”ことを目的としていることを頭に置いておきましょう。相手の温度感を感じとりながら、寄り添って対応することが、大切です。
状況質問(Situation)
状況質問は、事前準備のうえで端的に絞って質問をすることがポイントです。お客様に聞かなくても、デスクトップリサーチなどで情報を得ておくようにしましょう。すでに表に出ている情報を聞くとお客様から「リサーチ不足」と思われかねません。加えて、状況質問を重ねてすることは、尋問をされているように感じるため注意しましょう。
セールス:最近、同じ分野の他社様から〇〇の相談を受けて支援をさせていただいているんです。御社でも同じ課題はないですか?
お客様:あー、ありますね。
セールス:やはりそうなんですね!〇〇の課題は会社様によって状況が違っていて、業界でも対応方法が分かれているみたいなんです。ぜひ参考にさせていただきたいのですが、御社はどうしているんですか?
お客様:私たちの会社では、、、。
課題やニーズを深掘りするうえで、第三者話法を用いることはとても有効です。他社情報を起点にすることで、営業っぽさが軽減され、「参考にしたい」と学ぶ姿勢を示すことで相手の警戒心を下げることにつながるでしょう。
問題質問(Problem)
問題質問は、セールス側から指摘をするのではなく、相手自身に課題を認識してもらう・話してもらうことが重要です。「うちのサービスがハマりそう」だと思ってすぐに提案をしたり、セールスから課題を先に言う人がいますが、これはNG。表面的な困りごとではなく、本質的な課題発見につなげることが重要です。
セールス:「先程、◯◯の対応をExcelでやられてるっておっしゃってましたよね。」
お客様:「はい、そうですね。」
セールス:「更新が重なる時や複数の人が対応するときに、データの入力ミスが発生することってないですか?」
お客様:「正直、ありますね。入力漏れとかも出ますし。」
セールス:「ですよね。忙しい時ほど、そこ手間になりますよね。」
示唆質問(Implication)
示唆質問では、相手自身に課題解決の重要性を認識してもらい、解決が必要だと思わせることがポイントになります。一方、重要性を認識してもらうために、過剰な表現や不安を煽ることは避けましょう。一緒に考える寄り添いの姿勢を見せながら問いかけることが大切です。
セールス:「入力漏れが出やすいっておっしゃってましたよね。」
お客様:「そうですね。」
セールス:「それが続くと、月末とかにまとめて確認するの、結構大変じゃないですか?」
お客様:「はい、正直そこは毎回バタつきます。」
セールス:「ですよね。しかも月末は他の業務もあると思いますし。」
解決質問(Need-Payoff)
解決質問では、単に解決策を提示するのではなく、相手が抱える課題が自社のサービスによってどのように解消し、結果どんな状態になるのか。課題解決後の理想的な状態までのストーリーを具体的にイメージしてもらうのです。
セールス:「もしその確認作業が、普段から自動で整理されてたら、だいぶ楽になりそうですか?」
お客様:「それは助かりますね。」
セールス:「ですよね。時間も取られなくなりますし、気持ち的にも余裕が出そうですよね。」
解決質問は、これまでの状況質問・問題質問・示唆質問があってこそ成立します。それぞれの質問と回答をつながりで捉え、実践していくことが大切なんです。
SPIN話法は、単に会話を広げるための質問フレームではありません。ヒアリングを通じて、顧客の課題や温度感を把握し、結果的にBANT(予算・決裁権・ニーズ・導入時期)を見極めるための土台にもなるんです。 BANTについて、以下の記事でより詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
SPIN話法を活かすポイント
SPIN話法は、質問内容だけでなく、「聞き方」「リアクション」「相づち」などもニーズを引き出す重要な要素になります。会話中の質問力・ヒアリング力を高めるポイントやテクニックを紹介します
相手の話に「かぶせない」間の使い方
日常生活の会話の場面で、自分が言いたいことが終わっていないのに話や質問を被せて来る人、いませんか?
あまりいい気持ちはしませんよね。営業の場面でも、相手の話を遮って、自分の知識を披露したり、一部の内容に対する質問を返す人を見かけます。相手の話の区切りを見極めることはとても重要です。話が続くのか、終わったのか。
「3秒」を目安にすると良いでしょう。3秒の時間があることで、お互いに思考の整理ができるとともに、相手に落ち着いた印象を与えることができます。しかし、沈黙に繋がらないよう、相槌や繰り返し話法を取り入れ、理解や共感の姿勢を示しながら、相手の話の区切りを見極めるのです。
回答に対する共感リアクションが会話を弾ませる
質問から一定の回答を引き出すことに成功したら、回答に対するリアクション次第で会話の流れは変わります。その際、共感のリアクションを意識しましょう。
共感を生むリアクション例
・なるほど。〇〇〇〇なんですね。 →相手の話の言葉や内容を引用し繰り返し発言する(肯定法)。
・本当にそうですよね。私の会社も…。 ・わかります。私が以前担当していたお客様も同じように…。 →相手の話に近い体験・経験談を伝えることで、具体的な共感が生まれる
・そうなんですね。以前、近しいことを聞いた・ニュースで見たことがあって、背景がよくわかりました。 →自身が持っている情報で共感をしつつ、相手の話からの学びを伝える。
言葉だけでなく、具体性のあるリアクションをすること。その際、抑揚を付けることで感情が伴い、相手との距離はグッと近くなるでしょう。
「相手の温度感」で柔軟に調整する
さまざまな質問を通じてヒアリングをしていると、相手の反応が変わる瞬間があります。たとえば、状況質問ではそっけない会話だったが、問題質問・示唆質問に移っていくなかで、相手の話が具体的になったり、抑揚や感情を感じられるようになることがあります。その変化のタイミングを見逃さないことが重要です。
変化が起きたとき、次の想定質問をせず、そのときの話題をより深掘りするのです。一方、回答への躊躇や言いにくさを示すときは、伝え方や質問に注意しましょう。そのほかに、状況質問をしたものの相手の回答が、問題質問にも通ずる内容の場合があります。その際は、問題質問を先に聞くか、話を状況質問に戻すなど、柔軟に対応するようにしましょう。
SPIN話法を自分の型に落とし込むには?
基本は大切ですが、いつも基本通りでいいわけではありません。SPIN話法は、相手との会話から空気感を読み取り、自分の言葉と伝え方に落とし込むことで、その効果が発揮されます。
自分の言葉で言い換えてこそ刺さる
SPIN話法が取り入れられたスクリプトが手元にあると、質問例を「そのまま」読んでしまうことがあります。質問例はあくまで、立ち返るための見本。見本をもとに、自分の言葉で話すことが重要です。具体的には、書き言葉を話し言葉に変える、スクリプトの内容を100%ではなく70%ぐらいの要点だけを押さえて話すことがポイントです。
●そのようなお声を多くいただいております。 →そうですよね、皆さんそこを気にされます。
●現在、御社では◯◯の管理はどのように行われていますでしょうか。 →今、〇〇の管理はどうされてます?
言い換えによってラフになりすぎることもあります。言い換えが失礼にあたらないかは、組織内で客観的に判断をするようにしましょう。
話したログから「使えた質問」をアーカイブ
テレアポでは、スクリプトの効果検証・改善のためにログを取りましょう。その際、SPIN話法に関する質問も合わせて検証することで、より効果的なものになります。
担当者別に、リストに対する質問内容、顧客の反応、改善点をまとめます。業界別に成功例と失敗例から傾向を分析し、質問をブラッシュアップ。組織内で共有をしていくことで、よりよいSPIN話法の実践につながります。その際、成功例を題材としてロープレを実施し、一人ひとりの会話を録音しましょう。自分の録音内容を聞くことで他者との違いを客観的に知ることになり、自分なりの聞き方・質問の仕方にブラッシュアップしやすくなります。
日常会話から意識する
SPIN話法は「営業だけ」に活きるテクニックではありません。日常のあらゆる場面で活かせます。たとえば、恋愛の場面。モテる男は自然とSPIN話法で会話をしているんです。
SPIN話法を取り入れたデートへの誘い方例
男性:「最近、休みの日って何してること多いの?」
女性:「だいたい家で、youtubeかNetflix見たりしてるかな。疲れてると外に出る気がしなくて。」
男性:「わかる!でも、動画を見終わったり、ふとした時に後悔することない?」
女性:「うん、正直ちょっとあるかも。気付いたら休みが一日終わってること多くて。」
男性:「そうそう、その瞬間に休み明けの仕事のこと考えたりね。リフレッシュしているようで、疲れが完全に取れなくて、モヤモヤした状態が続かない?」
女性:「確かに。疲れ溜まってるかも。」
男性:「じゃあ、今度仕事終わりに、美味しいもの食べに行かない?動画から離れて、美味しいもの食べてリフレッシュできるし。」
女性:「それいいかも。」
「デートへ行かない?」と、ダイレクトに誘うのではなく、相手の日常の悩みを知り、共感を示しながら、一緒に悩みの解消を提案するのです。恋愛以外でも日頃から、「相手の背景(S)→課題(P)→影響(I)→理想(N)」を意識して会話をすることで、SPIN話法が磨かれ、営業の現場でも自然と実践できるでしょう。
SPIN話法は「型」ではなく「会話設計」である
SPIN話法は、型どおりにやれば必ず成果が出る魔法のテクニック…ではありません。大事なのは、相手に合わせて柔軟にチューニングする。きれいな質問を用意するより、相手の一言にちゃんと反応する。そのほうが会話は自然に続きますよ。
全部を完璧に使おうとしなくて大丈夫です。まずは明日から、いつもの説明をひとつ質問に変えてみる。それだけで、相手の話す量も、空気も少し変わるはず。SPIN話法は覚えるものではなく、少しずつ“使える感覚”にしていくものなんです。