「間に合ってます」の本当の意味、わかってる?顧客の心理に寄り添うアウト返しのポイント
「株式会社JYMの橋本と申します!御社の採用についてお力になれるサービスが――」
「あー、うちは間に合ってますんで」 ガチャッ
元気よく電話をかけたのに、こんな感じで食い気味に「間に合ってます」と言われてしまった経験、セールスのみなさんなら必ず一度はあるのではないでしょうか。
でも、ここで「この会社はだめか……」と、リストから外すのはもったいないです。実は本当に間に合っている企業はほとんどなく、「間に合っています」の一言は“変化への恐怖”を示していると考えられるからです。
変化への恐怖とは何なのか、どうすればこの不信感を突破できるのか。今回は「間に合ってます」の裏にある心理を理解して、アウト返しのテクニックで会話の糸口を見つけるヒントをお伝えします。
テレアポあるあるの「間に合ってます」の本当の意味とは?
「間に合ってます」と言われたら「もう利用している商品やサービスがあるんだ」「もう課題が解決していて、新しい提案は不要なんだな」と考えてしまいがちですよね。
でも、インサイドセールスの現場における「間に合ってます」は別物です。筆者の経験上、本当に現状に満足している顧客はそう多くありません。
ではなぜ断るのか。電話を受けたときに過去の営業電話の嫌な体験(時間が無駄になった・押し売りされたなど)が思い起こされて、「話を聞くのが面倒くさい」と感じてしまっているんです。
仕組みを変えるのは労力が伴いますし、必ず上手くいくとも限りません。過去に面倒な経験をしたからこそ、現状維持バイアスとして「間に合っています」という一言が出てくるのです。
間に合ってますは「今は変化したくない(面倒くさい)」のサイン
つまり、「間に合ってます」の裏に隠れているのは、会社としてのメリット云々の話ではありません。担当者個人のペインです。
具体的にはこんな感情です。
⚫︎上司への説明が面倒 ⚫︎今のやり方を変えるのが面倒 ⚫︎新しいツールの使い方を覚えるのが面倒 ⚫︎社内調整で稟議を回すのが面倒
基本的に担当者は会社にメリットがあるかどうかではなくて、目の前の担当者が背負うことになる手間と心理的負担をもとに判断します。
恋愛に例えるとわかりやすいかもしれません。マッチングアプリでやり取りしていた方に「他に気になる人ができた」と断られたとき、本当に気になる人がいるとは限らないですよね? 「今までの経験からこの人は合わなさそう」「正直やり取りがちょっと面倒」と思われてしまい、現状維持をしたいがために出る防御反応として、遠回しに断られている可能性もあります。
営業電話の「間に合ってます」も、これとまったく同じ構造なんです。
実務に関わる担当者は「業務負担が増えるのでは?」「これは本当に使えるのか?」といった不安や、今使ってるツールで十分という不要感を持ちやすいものです。ここを理解せずに、会社にとってのメリットをいくら熱く語っても、相手の心には1ミリも届きません。
人は新しい提案を「過去の失敗体験」と比較して断っている
もうひとつ、知っておいてほしい人間心理があります。人は判断をする際に、必ず何かと比較するということ、その比較対象はほとんどが過去の体験であるということです。
たとえば居酒屋でメニューを見るとき、無意識に「あ、このビールは前に行った店より高いな」と過去の購買体験と比較していますよね。テレアポを受けたときの担当者の頭の中でも、同じことが起きています。
「営業電話か……。前に話を聞いたら20分も拘束されて、結局よく分からない商品だった。月末で締め業務もあるし、また残業になるのは勘弁だな……」 ↓ 「(とりあえず断ろう)うちは間に合ってます」
ここでの「間に合ってます」の本当の意味は、過去の嫌な営業体験と比較して、あなたの電話に時間をあげる価値はないというジャッジなんです。
なお、上位役職者ほどアポが取りづらいのは、これまでの経験から比較対象が多いことも原因のひとつとなっています。
マニュアル通りの「Yes But法」で顧客がキレる理由
「間に合ってます」と言われたら、応酬話法で切り返すのがセオリーとよく言われます。たとえば「そうですよね、ですが弊社のサービスは〜!」と切り返すYes But法なんかは王道ですが、真面目にやればやるほど、現場ではスベります。
「間に合ってます」→「ですが!」の切り返しはただの論破
顧客:いや、うちは他社さんのツールで間に合ってますんで。
セールス:そうですよね!ですが、弊社のサービスはコスト面で〇〇%削減した実績がありまして!
顧客:はあ……。
セールス:機能面でも他社にはない〇〇という強みがあるのですが
顧客:あー、結構です。ガチャッ。
筆者も新人時代にはこんな切り返しをよくしていましたが、こうした応酬話法の使い方はNGです。これ、顧客の「間に合ってます」を完全に否定していますよね。「あなたは間違っている、うちのほうがいい」と、上から論破している構造になっているんです。
「この人、論破してくるな」と顧客に思わせたらそこで試合終了
応酬話法は本来、相手の心理的シャッターを開けるためのテクニックです。論破に使ってしまうと、逆にシャッターをガッシャンと閉める道具になってしまう。「この人、論破してくるな」と顧客に思わせた瞬間、もう試合終了だと思ってください。
「ですが(But)」という言葉は、構造的には相手の意見の否定です。否定されると、人間は2つの反応のどちらかを取ります。
1.戦闘態勢に入る(反論してくる) 2.心を閉ざす(無言・ガチャ切り)
テレアポの場合、1の戦闘態勢になる人は少数派ですが、Yes but法は使い所を間違えると完全に逆効果となってしまうので注意が必要です。
「間に合ってます」を無効化するアウト返しの手法
では、どうすればいいのでしょうか。現場で実際に使えるのがアウト返しという手法です。
アウト返しとは、「相手の否定的な発言を、そのまま受け止めて返す」テクニックのこと。Yes But法のように反論するのではなく、相手の言葉に乗っかって会話を続けていく方法です。
具体的な手法をいくつか紹介していきます。
否定をそのまま受け止める「オウム返し」
アウト返しの基本技が、言われたことをそのまま返す「オウム返し」です。
▼NG例
顧客:うちは他社のツールで間に合ってます。
セールス:そうですよね、ですが、うちの商品は——
▼OK例(アウト返し)
顧客:うちは他社のツールで間に合ってます。
セールス:ありがとうございます!そうですよね、すでに他社さんのツールを入れられてますもんね(=間に合ってますよね)。
OK例では相手の発言を一切否定せず、むしろ「間に合ってますよね」と認めにいっています。
このように相手の発言をそのまま繰り返すだけで、顧客は「この人は自分の話をちゃんと受け止めてくれた」という感覚を持ってくれることが多いです。
「ですよね、そうおっしゃる企業様が多いんです」の安心感
理解者であることを伝えるためには、「そうおっしゃる企業様が多いんです」という共感ワードも効果的です。
顧客:うちは間に合ってます。
セールス:ですよね〜、もうツールの導入もされてますよね。そうおっしゃる企業様が多くて。
何が効くかというと、顧客の頭の中で「自分だけじゃないんだ」という安心感が生まれるんですね。「他の人も同じことを言っているなら、別に自分が変な対応をしているわけじゃないな」という安心感も持ってもらえます。
相手のネガティブを代弁することで「理解者」のポジションを取る
さらに応用形として、ネガティブの先回り代弁があります。顧客が口に出していないネガティブ感情を、こちらから先に代弁していくテクニックです。
顧客:間に合ってます。
セールス:そうですよね〜、月末も近くてお忙しいですし、別のツールを導入するのも手間ですもんね〜。
顧客:いや、本当にそうですよ(笑)
セールス:ちなみに、これだけお聞きしておきたいんですが――
「繁忙期で検討の暇はない」「ツールの導入がダルい」と顧客が思っていても、ビジネスマナーとして口には出しませんよね。そのペインをこちらが先に言ってあげると、単なる営業マンから「業界の理解者」へと、こちらのポジションが移行するんです。
ここまでできれば「これだけお聞きしておきたいんですが」などのクッション言葉を置きつつ、ヒアリングのフェーズに自然に入っていけます。
【実践】「間に合ってます」と言われた時のアウト返し例文
ここからは現場でよくある断り文句にもとづいて、2つのアウト返しパターン例をご紹介します。
「他社のツールで間に合ってます」と言われたら
「他社を使ってるから」系のNGは、実はチャンスです。なぜなら、すでにそのカテゴリの商材を使う前提ができている=土台が揃っているからです。比較対象が明確で課題を深掘りしやすいので、以下のように聞いてみてください。
顧客:うちはもう他社さんのツール使ってるんで、間に合ってます。
セールス:そうですよね、すでにA社さんのツール入れられてますもんね。ちなみに、今って〇〇や✕✕の部分で使いにくさとか感じてらっしゃらないですか?
顧客:んー、まあ、✕✕の部分はちょっと使いづらいかもですね……。
セールス:あぁ〜、✕✕のところですか。差し支えなければ、もう少し具体的にどんなふうに使いづらいか教えていただいてもいいですか?
この場合は、オウム返しから自然なヒアリングに流れていくのがポイントです。「使いにくさとか感じてらっしゃらないですか?」という聞き方も大事で、「何か課題はありますか?」とストレートに聞くと「特にないです」で終わってしまいます。
このように顧客や市場の課題感(=事実)を見つけ出すような技術をファクトファインディングといいます。具体的なテクニックは、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
「で、結局なんの話?」とならないために—インサイドセールスで刺さる「ファクトファインディング」の極意
「今は忙しいから間に合ってます」と言われたら
「忙しい」系のNGも頻出パターンです。これに対するアウト返しは、忙しさへの全面共感+時間打診への接続を意識してください。
顧客:今は忙しいんで、間に合ってます。
セールス:ですよね〜!この時期の〇〇部門の方、決算前でめちゃくちゃお忙しいのにすみません。なので今日は手短に、3分だけお時間いただけますか?
ポイントは、顧客が言った「忙しい」を業界知識と組み合わせて代弁し直しているところです。何が原因で忙しいのか、ふわっとした言葉を「決算前」「〇〇部門」と具体化することで、「この人、うちの会社(業界)をわかってるな」という感覚を相手に与えています。
そして大事なのが、忙しい相手に対して「あらためてお電話します」で引かないことです。ここで断られたときの返し方も。
顧客:あー、でも今日はちょっと難しくて……。
セールス:そうですよね、本日は難しいですよね……。明日かあさっての〇時頃でしたら2、3分ほどお時間ありそうですか?
「今は無理」を「いつなら大丈夫か」に置き換える時間打診をセットで行うことで、機会損失を最小化できます。このとき、できるだけ選択肢を絞ってあげるほうが、相手も決断しやすいので覚えておくとよいでしょう。
よくある質問:「間に合ってます」の壁
Q. テレアポの「間に合ってます」は本当に間に合っているのですか? A. 筆者の経験上、本当に間に合っている企業は少数派です。多くの場合「間に合ってます」は、過去の営業電話の嫌な体験との比較から出てくる防御反応であり、「今は変化したくない(面倒くさい)」という担当者個人の感情の表れです。会社レベルで本当に何の課題もない企業は、ほぼ存在しません。
Q. 「間に合ってます」とガチャ切りされたらどうすればいいですか? A. ガチャ切りされた瞬間に追いかけても無意味です。ただし、そのリストを「もうダメだ」と捨てる必要はありません。時間を置けば担当者の変更や社内の状況が変わっているケースも珍しくありません。また、ガチャ切りの原因が「第一声の印象」にある可能性もあるので、自分の録音を聞き返してみるのもおすすめです。声色や入りの一言が暗くなっていないか、チェックしてみてください。
Q. アウト返し(オウム返し)とYesBut法の違いは何ですか? A. 構造が真逆です。Yes But法は相手を受け止めつつも、最終的に反論する手法。アウト返し(オウム返し)は「相手の発言をそのまま受け止めて、否定せずに会話を続ける」テクニックです。どちらもただフレームワークを覚えればいいというものではなく、自分なりの使い方を見出すことが一番重要なため、そこを勘違いしないようにしましょう。
Q. 何度かけても「間に合ってます」と言われるリストはどうすればいいですか? A. まず確認すべきは、自分の話法に問題があるのか、リストそのものに問題があるのかの切り分けです。アポ率は「話法×リスト×印象」の掛け算で決まるので、どこかひとつでもゼロに近いと成果は出ません。「間に合ってます」率が異常に高いリストは、ターゲット属性や企業規模など、何かが自社商材とズレている可能性があります。他のリストに優先順位を切り替えるのも手です。
「間に合ってます」の裏にある顧客の痛みを理解する
「間に合ってます」という一言は、ただの拒絶ではありません。その裏には、過去に変な営業に時間を奪われた、日々の業務が忙しい、社内調整が手間など、なんらかの要因が眠っています。
こうした担当者の痛みを想像できるかどうか、ひいては相手のシャッターがなぜ閉まっているのかを理解することが、インサイドセールスにおいては非常に重要です。これは「テクニック」じゃなく「愛」と「配慮」の問題だと考えています。
まずは「間に合ってます」と言われたときに、ひと呼吸置いて「ですよね、〇〇さんも間に合ってる感じですよね」とオウム返しすることから始めてみてください。そこから会話の糸口が見つかるはずです。
「間に合ってます」の壁を、顧客への大きな愛で乗り越えたい人は、筆者のSNSアカウントからお気軽にDMをお送りください。ここに書いていないアウト返しのバリエーションもお伝えできると思います。
一緒に「間に合ってます」を「ぜひお話聞かせてください」に変えていきましょう!